28.業績悪化時に銀行が打ってくる「手」を知ろう
中小企業金融円滑化法が施行されてから、不振企業に対する銀行の対応は一変し、現時点では基本的には「リスケ」を快く受け付けてくれています。
元金の返済を止め、利息のみの支払いという会社も多いことでしょう。
中小企業金融円滑化法終了後のアレコレ
ご存知の通り、この法律も平成25年の3月で期限が切れます。
ここでは、この円滑化法施行前に見られた「銀行は融資姿勢が厳しくなるとどうなるのか」と、それにどう「対応」すべきかについて説明していきたいと思います。
おそらく円滑化法終了後、銀行の融資姿勢は硬化しますので、その対応策を今から練っておいた方が良いと思います。
返済が厳しくなる場合とは、返済キャッシュアウトが営業キャッシュ・フローを上回っており、かつ、借入当初よりも売上高・利益が悪化して、折返し融資を申込んでも希望額満額が下りない状態を言います。
返済が厳しくなった場合の銀行の対応について
まず、複数行と取引している場合、各行が「メイン銀行の融資が出るまでウチは出さんよ」という姿勢になります。
最悪焦げ付いた場合、泥棒に追い銭をしたのが「当行だけ」ということになったら責任問題になるからです。
そこで作成するのが「事業計画書」と「返済計画書」になります。
まず、融資が下りる内は返済猶予ではなく、融資の申し込みをして、A銀行は○月に○円融資、B銀行は□月に□円融資、C銀行は...と、とりあえず返済のめどがつくような返済計画を作って、メイン銀行と交渉します。
メイン銀行がOKしなければ、他行がOKする可能性は低いので、
「ここで応じてくれないとリスケに突入せざるを得ませんよ。他行はメインの融資待ちです」と粘り強く交渉します。
返済困難相談時に銀行がとる4つの対応パターン
さて、ここからが銀行の対応です。
①担保をこちらから提供する旨の話をして、これにのってくる
(但し担保余力のある不動産を持っている場合)。
②「プロパー融資では出せないので」と言って保証協会付融資(制度融資)を勧めてくる。
③返済期間を短縮して条件提示をされる。
④定期預金で一定額を積むことを条件に①③を勧めてくる。
⑤断られる。
と、その前に、困った状態になるとちょっと金利が高めの「商工ローン」が気になり出したりします。
「商工ローンからの借入が決算書や試算表に載ってくると、銀行はドン引き」します。
ですので、絶対にやめてください。しかも、ここで手を出して、商工ローンを返せた人を見たことがありません。
また、商工ローンは絶対に第三者保証を求めてくるので、この後、破産すべき時に破産のタイミングを遅らせる原因にもなる可能性があります。せいぜい、加入している生命保険の「貸付制度」を利用する程度に留めておいてください。
担保の差し入れと抵当権と根抵当権のについて
①で「抵当権」を不動産に設定する場合、既存の借入につけるのでなく、新たな借入をすることになります。
「抵当権」か「根抵当権」かは「根」が付くだけですが、大きく違います。
「根」抵当権は、多くの場合、「業績がちょっと落ちたかな...」という時に、「根抵当権を設定しておくと、いちいち借入の度に抵当権を設定しなくて良いので、便利ですし、抵当権設定費用を考えると経済的ですよ」と勧められます。
しかし、これが厄介者で、平たく言うと「その銀行に関わる借入の全てを返済しない限り外せない」のが根抵当権ということになります。
これがどう影響するかというと、根抵当の分の担保枠が常に削られてしまうので、「新たな銀行が参入しにくくなる」、つまり、根抵当権を設定した銀行に「首根っこ」を掴まれた状態になってしまうのです。
また、一度設定すると、借入を全額返済するか、承諾を得るまで解除できませんので、「無担保融資」さえ有担保と同じことになってしまいます。
さて、話を元に戻します。
ここではできる限り「根」の付かない抵当で交渉して下さい。とはいえ、事業に明るい兆しが見えているのであれば、後で交渉すれば抵当は外せますから、いずれにせよ、①の条件は飲むべきだと思います(抵当は「外してくれ」とこちらから言わないと、住宅ローンでもない限り外してくれることはないので注意しましょう。ことある毎に「抵当を外す努力」をして下さい)。
制度融資を使った新たな借入(旧債振替)
さて、②は「旧債振替」と言って、保証協会と銀行間の契約違反です。
旧債振替とは、企業が同一銀行から融資を受ける際に、既に実行されている(借入)している融資の返済のために、新たに受けた保証付融資を充当することを旧債振替と呼んでいます。
旧債振替は禁止されており、その事実が認められた場合には、銀行は代位弁済を請求することができなくなります(正しくは、保証協会側で代位弁済を否認することができる)。
つまり...旧債振替は銀行の融資を保証協会が肩代わりすることになるため問題なのです。保証協会にばれると、銀行は非常にまずいことになります。
そのことを、こちらが知らないと銀行は素知らぬ顔をして勧めてきます。とはいえ、飲まなければならない場合もあります。
とくに他行がメイン銀行の出待ちになっているようなケースでは飲まざるを得ないでしょう。
しかし、「これって旧債振替じゃないのですか?」とチクリとは言ってやりたいところです。とにかく銀行は「交渉しない人、情報のない人」には何でもありです。
返済期間の短縮
そして、③これは銀行としては正当な交渉です。これぐらいで済むのであれば、スッキリ飲みましょう。
定額預金の一定額積み増し
そして④、これも「両建て預金」と言って、「独禁法」の「優越的地位の濫用」に当たると言われています。預金利率よりも高い利息を払って借り入れたお金を「預金」に回す合理性はどこにもありません。
従わざるを得ないのは分かりますが、「知らない」と思われることが何よりも不味いのです。
「これって両建て預金ってやつじゃないのですか?」
と契約の押印時にチクリと言うべきです。
最終手段...「倒産」
そして最後の⑤、これは弁護士に相談しましょう。
そして相談は躊躇わずに、「スピード」が命です。 また、「現預金がないと倒産できない」ということをご存じない方がいらっしゃいます。
破産も民事再生も「民事事件」ですから、国選弁護人が付くわけではありません。したがって当然費用がかかります。
すごく親切な弁護士さんで「清算した財産から報酬をもらうからいいよ」といってくれたとしても、手付金や裁判所に払う費用は別物ですので、絶対に現預金は必要です。ギリギリまで頑張ってしまわないように注意しましょう。
さて、このような形で、「事業計画」と「返済計画」を頼りに交渉を続けていくわけですが、「足下を見られて」どうにも理不尽な対応を取られることがあります。
そのようなときの「駆け込み寺」が金融監督庁の「金融庁ホットライン」(現在は「金融円滑化ホットライン」http://www.fsa.go.jp/receipt/e_hotline.html )です。
「本ホットラインに寄せられた情報等は金融機関にフィードバックするなど、検査・監督に活用させていただきます。」と、非常に心強いお言葉が書かれています。最後の手段と心得ておいて損はありません。
なお、抵当・根抵当の補足ですが、保証協会付融資(制度融資)を受けるときに、保証協会が抵当を条件に保証することがあります。
これを「協会優先充当」というのですが、保証協会と銀行の二者に担保を取られることになります。こうなると、より身動きがとれなくなります。
そして何故か、そこまでしなくても融資が受けられるはずという場合にも、保証協会が優先充当を条件にすることがあり、銀行も成績の為ならばと、十分な説明なしに契約に至ってしまうことがあります。
従来からの借入に抵当権が付いていて、新たに保証協会付融資を受ける場合には注意をして下さい。
「優先充当ではありませんか?」と一言確認をするようにして頂きたいと思います。抵当権の解除にプロパー+保証協会分の全額弁済が必要となります。
とにかく、納得いかなくとも飲まざるを得ない事が多いと思いますが、引く時は「潔く引く」を心がけるべきでしょう。
ただその際に「ここを譲ってもまだ退路は確保されているのか」という点に気をつけて下さい。
再起の機会にまた攻められるように。