27.銀行組織を知って交渉を有利に
相手のことを知らずして「かけひき」はできません。
ここでは銀行という組織について考えてみましょう。まず、私たちが日頃お付き合いするのは「支店」になります。
そして支店を指導・統括しているのが「本部」ということになります。銀行によっては支店の上に「支社」があります。
「支店・支社」と「本部」との関係ですが、「支店」は一般の事業会社で言う「営業」、「本部」は「本社」に当たります。
銀行にもよりけりですが、「本部」で商品を開発して「支店」でそれを売る。という構図になっています。
がしかし、本部は「売れ」と言うものの、「焦げ付きも困る」ので、支店から上がってきた案件を「審査で落とす」という難しい事をやっています。
だから、支店にとっては「目の上のたんこぶ」と考えられていたりします。
更に、色々面倒なのですが、優秀な営業マンは「支店」でも銀行にとっても「花形」です。なので、そこにプライドを持っています。
ややもすれば、「本部」は「営業向きでなかった社員が行くところだ」と考えている社員(営業・支店長)さえいます。ですから、「本部」からの上意下達がすんなりとは行かない場合もあります。
だから、「本部に知合いがいるから、イザとなったら便りにしよう」と思っていると、その通りにならないことがあります。
むしろ、頭越しに交渉する事が逆効果となる場合すらあります。さらに本部は本部で「エリート」意識がありますから、話がややこしくなります。
結論としては(一部の役員を除いては)「本部」にいる知り合いよりも、「支店長」の方がずっと頼りになります。また、支店には「序列」があります。地銀以下では一般的に本部のお膝元の支店が最高序列です。
支店長ともなると各種団体の会合や、セレモニーで挨拶したり、時にはテープカットをしたりする顔役として活躍される、いわば地元の名士だったりします。だいたい、本部から地理的に離れれば離れる程、序列は下がって行きます。
ここも交渉のポイントの一つですが、そんな本部お膝元の支店と、本部から離れた支店では「融資姿勢」にも「金利」にも差があります。
本部に近い支店には、交渉など応じずとも優良企業が集まっていますので保守的な融資を行っても問題ありませんが、離れた支店ではアグレッシブにやっていかねば、ノルマを達成する事ができませんから積極的です。
また、「都市」の対抗意識がそのまま「支店」の対抗意識になっているということもあります。例えば、「浦和」と「大宮」のような。ここも上手く使っていきたいところです。それから支店の大小もあります。
都市によって大企業の支店が集まる地域と、中小企業が密集している地域があります。
「小さな支店の大きな融資先」となるか、「大きな支店の小さな融資先」になるかで、融資姿勢も金利も違ってきます。
一度取引した支店は、借入完済後一定期間を経過するまで変えられないので、「やっぱりあっちの支店と付き合っておけば良かった」と後で分かったところで、「あとの祭り」ということになりますので注意が必要です。
では、「大きな支店」と「小さな支店」、中小企業では「小さな支店の方が中小企業にとっては有利か」というと、一概にそうとは言えません。
大きな支店の支店長には「大きな支店長決裁枠」、小さな支店の支店長には「小さな支店長決裁枠」となっているからです。
融資額が小さい内は小さな支店の方が有利かもしれませんが、ちょっと会社が大きくなって融資額が大きくなると「本店稟議」ということになってしまい、不利になることがあります。
本部の審査部は「ペーパー」のみで審査をするため、支店では「神のみぞ知る」的な扱いになってしまいます。
どちらが有利か分からないのはこの為です。
さて、本支店の関係を少し離れましょう。銀行は「不正防止」の為に度々「人事異動」を行います。
そして、支店の支店長には支店の運営に関してかなりの権限が与えられますので、「支店長が変わる」と「銀行が変わった」かの様に、劇的に「融資姿勢」が変わる事がほとんどです。
ですから、私たちとしては、「いつなんどきアグレッシブな支店長が異動してしまうかもしれない」リスクに備えて、複数の金融機関と取引をするという防衛策をとる必要があるのです。
また、銀行の担当者もずっと「渉外(いわゆる営業マン)」[Wユ2] を担当してきた人と、「審査」や「回収」から異動になってきた人では、融資姿勢に差がありますので、それぞれ柔軟に対応できるように心がけたいところです。
いわゆる「合う、合わない」が生ずるのは当たり前のことですので、最低限度「合わない」人に当たった時に「キレて」しまわないように注意しましょう。
銀行のパソコンの「取引記録」に、そうした「ネガティブ」情報が一度書き込まれてしまうと、これが長い間尾を引く事があります。
ここまで、銀行組織について見てきましたが、あくまで一般論で、むしろ、個別の銀行を見た場合、当てはまらない事の方が多いと思います。
ただ、「法律に縛られた組織」という性質上、当たらずとも遠からずではあると思いますので、交渉の際の参考に、ふまえておいて頂ければと思います。